ビスが一本も使われていない門に一目惚れ。宮大工が自分のために建てた家が、囲炉裏とかまどのある宿「讃岐の宿 古今」になるまで(綾川町・滝宮)

10数年間、空き家だった1軒の民家が、様々な人と歴史、文化を結ぶ、素敵な場所として生まれ変わっています。

県内、国内はもちろん、時には国外からもお客さんが訪れ、綾川町を、香川を、そして日本を知る玄関口として、多くの旅行客で賑わっているゲストハウス。

それは、綾川町の滝宮(たきのみや)にある、囲炉裏とかまどで昔ながらの”火のある暮らし”が楽しめる一棟貸しの宿「讃岐の宿 古今(ここん)」さん。

2024年7月7日、七夕の日にこの古民家は宿になりました。

今回は、オーナー真島美帆(ましま みほ)さんに伺ったお話を中心に、この古今のご紹介をしたいと思います。

 

ビスを一本も使っていない”門”に一目ぼれ

真島さんが民泊を始めようと思ったきっかけは、知人の宿に泊まったことでした。囲炉裏とかまどのある宿だったそうです。

そこから県内のいくつもの物件を見て回りましたが、なかなかぴんとくる物件に巡り合えず、そんな中、不動産屋さんに紹介されたのが、この家でした。

そして真島さんは、家の中に、いや、敷地に入る前に、この家に決めてしまいます。

まず門構えを見たのが一番なんですけど、門を見た時にはものすごく立派だったので、すごい感動と興奮を覚えたというか。ここがすごくいいなと思ったのが一番で

 

この門・・・実は、ビスが一本も使われていません。

木を組むだけで立てられた門なのです。手がけたのは、神社の補修などを請け負う宮大工さんだそうです。

 

それは、宮大工が自分のために建てた家だった

立派な門をくぐって中に入ると、立派ではあるけれど、いわゆる昔ながらの建て付けの、ごく普通のお宅・・・のはずですが、ちょっと何かが違う。

すると、この家は、家主さんであった宮大工さんが、ご自身のためにご自身の手で建てられた、という話を聞きます。

「そこの仕様がすごく上質だったんです。本当にこの家だったら、『私もこういう宿にできるな』というアイディアが、どんどん出てきて」

「やるならここしかないと。物件に一目惚れです。直感です」

そこの仕様がすごく上質だったんです。本当にこの家だったら、『私もこういう宿にできるな』というアイディアが、どんどん出てきて。


やるならここしかないと。物件に一目惚れです。直感です。

しかもその大工さんは、建てる前から、ご自身が気に入られた柱等の材料を、ずっと集めていたんだとか。

柱自体もきれいですし、今少なくなったのは雪見障子とか、建具もすごく上質なものがたくさん使われてます。

 

建てられたのは、今から五十年近く前。使われている柱の美しさ、今では見られなくなった雪見障子(ゆきみしょうじ)、天井板の意匠。真島さんがこの家から受け取られたのは、半世紀近く前に一人の職人が思いを込めて集めた材そのものでした。

そんな素敵な誂えの中でも、真島さんが自信を持っておすすめするのが、ベッドルームの天井です。

「天井のあつらいがすごくきれいなところがあるので、特にベッドルームの天井が。お休みになるときに、ゆっくり見ていただきたいなと思ってます」

 

火の回りには、自然と人が集まる

昔のお家っていろりとかまどがあって。やっぱり火の周りってすごく人が集まって、団欒できる場所というか。そういう場所を私も作りたいと思って、ここの場所に決めました。

もう内覧の時点で、真島さんの頭にはもうイメージが浮かんでいたそうです。ここにかまどを作ろう、ここにいろりを置けたらいいな、と。

そう、まるで当初から設置されていたかと思うほど、屋内の景色に馴染んでいるリビングの囲炉裏は、改装時に新設されたものなのです。

また、かまどのほうは、釜が収まる外枠に、既製品が無かったため、設置場所に合うようにオリジナルで特別に製作しています。

・・・そこまでして、実現したかった”火”のあるひと時。

そして実際に、狙いどおりのことが起きています。

うちにご宿泊いただくお客様が、グループ旅行とか、おじいちゃんおばあちゃんを交えた三世代旅行っていうのがすごく多くて。


そうなったときに、おじいちゃんおばあちゃんたちが、お孫さんにかまどの使い方を教えてあげる。いろりの使い方も教えてあげる。みんなでいろりを囲んで、団欒の時間を設けるっていう・・・。


普段はできない経験、今のご自宅ではできない経験を、ここでしていただけるっていうところで、そういう場所の提供ができてるってことが、すごく嬉しいなと思ってます。

かつては、どの家にもあった、けれど今では見られなくなった風景。「古今」は、そんな懐かしく、だけど新鮮な体験ができる宿として、生まれ変わったのです。

古今がある滝宮は、ずっと「泊まる町」だった

ここで少し、目線を宿から外してみましょう。

「古今」があるのは、綾川町の滝宮。琴電琴平線の滝宮駅から徒歩2分、高松空港からは車で20分という場所です。

この滝宮という町・・・実は、香川県内でも指折りの古い歴史、云われが残る土地なんです。

和銅2(709)年、奈良時代。高僧・行基(ぎょうき)が綾川の霊地に祠を建てました。これが滝宮神社と、別当寺「龍燈院(りゅうとういん)」の始まりとされています。

平安時代の初め、荒れていたその寺を中興したのが弘法大師・空海でした。

そして886年から890年にかけて、菅原道真が讃岐国司としてこの地に赴任します。その官舎の跡地に、948年に建てられたのが滝宮天満宮、というわけです。

そして、時代は下り江戸時代。金刀比羅宮は伊勢神宮に次ぐ巡礼地として人気を博し、全国から多くの人が参拝に訪れました。

高松から金刀比羅宮まで伸びる金毘羅街道。滝宮は、その金毘羅街道(高松—琴平)のほぼ中間にありました。高松を出た旅人が、ちょうど一泊する場所。往時の滝宮は、多くの人とモノが集まる市場町として、そして金毘羅街道屈指の宿場町として発展していったのです。

 

江戸時代から変わらぬ道幅

さて、この滝宮には滝宮神社からまっすぐ南に伸びる「本町通り」と云われる通りがあります。

片側一車線ですが車も十分通れるこの道、実は江戸時代から道幅が全く変わっていないそうなんです。

江戸時代に作られた通りとしては、格段に広い道幅。なぜか。

それは、「滝宮の念仏踊」の行列が通れるように、特別に広く設計された道だからです。町の裏手側を通る狭く曲がりくねった難所のほうが、参拝者の多く通る(旧来の)金毘羅街道だったわけですから、当時の人達が滝宮神社および道真公をどれほど大切にしていたかが分かります。

さて、滝宮の念仏踊は、国指定の重要無形民俗文化財です。他県の民俗芸能も含めた「風流踊(ふりゅうおどり)」を構成する重要な一件として、ユネスコの無形文化遺産として登録され、注目を集めています。

「雨乞い踊り」として、道真の赴任中に起きた大干ばつで雨を降らせた、という祈雨伝承が起源とする説が有名ですが、本質は雨乞いではありません。無実の罪で亡くなった道真の霊を鎮める、御霊信仰にもとづく供養の踊りです。

綾川を起源とし、霊性が宿る地として人々が崇めた信仰の地。そして多くの人とモノが行き交う、賑わいの宿場町。そうした背景を持つ歴史の場所に近接するのが、「讃岐の宿古今」なのです。

 

古今を町の入り口に

では、目線を宿に戻しましょう。

真島さんが「古今」でやりたいのは、単なる宿の運営にとどまりません。

私が事業をしてることで、町のPRとか、綾川町の関係人口が増えたらいいなと思ってるんです。

ここに足を運んでもらったのをきっかけに、町の企業さんとかお店にどんどん出向いてほしいなっていう思いが、すごく強くて。

実際、「古今」の食卓には、町内のお店からの食材が並びます。

ここで綾川町の食材が楽しめる。その足で、ご宿泊の帰りにまたお店に寄って、新たな町の魅力を発見して帰ってもらえたら、すごく嬉しいなと思ってます。

ちなみに、こんな綾川愛に溢れるコメントをされている真島さんご自身は、綾川町のご出身ではありません。

ここに通うようになって、ご近所の方とか町の方とかに、綾川の歴史を聞く機会がすごく増えたんですけど・・・。綾川町には歴史を感じられる場所とか、ものとかがすごくたくさんあって、調べれば調べるほど、すごく面白い発見の多い地域だなと思ってます

・・・

ふと立ち返ると、私自身もこの古今のプロジェクトに関わるまで、行基も、滝宮神社(天満宮の方ではないですよ)の云われも、本町通りのことも・・・ほとんど知りませんでした。

「古今」を通じて、町のことを知る・・・。まさしく、真島さんが目指す宿の在り方というものに、私自身がなっている、そんな変化が実際に起きています。

 

自治体関係の方や、経済産業局の方、学生さんなど、真島さんのもとには、綾川町をもっと知ってほしい・盛り上げたいという人の話が集まってくるようになっている、といいます。

ここが一つの場所として、そういう人と人とをつなげる場所とか、町の良さをPRできる場所の一つになれるんじゃないかなと思って。

県外から来る、国外から来るお客さんにも、香川県で、かつ綾川町ってこんな街、こんないいお店もたくさんあるよっていうのを知ってもらえる。古今がその入り口になれれば嬉しいなと思ってます。

 

 

cocon=繭 という名前

ところで、「古今」にはアルファベット表記があります。

cocon。

「古い文化と、今の文化を織り交ぜた体験をしてほしい」という「古今」の意味に加えて、フランス語の cocon=繭(まゆ) をかけているのだそうです。

繭のように人を包み込む、人が集まる温かい場所にしたい。

世代を越え、火の回りに集まって、団らんできる場所。この古今に、真島さんが囲炉裏やかまどを置いた理由が、つながりますね。

 

 

讃岐の宿古今 の予約・アクセス

  

  • 讃岐の宿 古今(ここん)/cocon
  • 場所:香川県綾歌郡綾川町滝宮1351-8
       琴電琴平線 滝宮駅より徒歩2分 /高松空港から車で約20分
  • 開業:2024年7月7日
  • 特徴:囲炉裏・かまど付きの一棟貸し古民家民泊
       ベッドルーム12畳(シングル2台)/和室11畳+書院2畳(布団最大5組)/庭にBBQスペース
  • 公式サイト:讃岐の宿古今公式サイト(ご予約も可能です)