【豊稔池だけじゃない 】最後から2番目のゆる抜き・・・か?|長柄ダム 知る人ぞ知る、ゆる抜き行事

豊稔池だけじゃない!綾川町でもダムのゆる抜き行事

長柄ダムゆる抜き

6月14日。
日曜の朝、私達は綾川町東分にある、長柄ダムへ向かっていました。

この時期、ダムへ向かう目的はただ一つ——

そう、「ゆる抜き」——

長柄ダムゆる抜き

香川県民で、この言葉を聞いてピンと来ない方はいないでしょう。

「ゆる」とは、昔のため池の底にあった木製の「取水栓(しせん)」のこと。この栓を抜いて下流の田んぼに一斉に送水することから「ゆる抜き」と呼ばれています。

香川では、農業用ため池やダムで見られ、本格的な田植えシーズンの到来を告げる伝統的な放水行事として、今も受け継がれています。

 

だがしかし、情報がどこにも出ていない(涙

長柄ダムゆる抜き

実は今回、この長柄ダムゆる抜きの日程が分かったのも、地元の方に声をかけていただいたからでした。

私が調べた限りでは、公式な告知はありませんでした。ウェブはもちろん、SNSも。

もしかすると、東分(「ひがしぶん」と読みます)地域の区内には、案内が回っているのかも知れません。同じ綾川町内といえども、地区が違えば、住民に届けられる情報も違ってくるのです。

そう、この長柄ダムのゆる抜き行事は、(悲しいかな)まさに知る人のみぞ知る、静かな年中行事となっている模様。。。

 

ちなみに、職員さんにちらっと聞いたところ、毎年、一人くらいは撮影に来られる方がいらっしゃるそうです。

 

放流の前には、3度の神事

長柄ダムゆる抜き

このダムの「ゆる抜き」とうものは、ダムにたまった水を流すだけの行事ではありません。

長柄ダムのゆる抜きでは、放流の前に神事が行われており、近くの長柄神社での神事も含め、ダムの堰堤と堰堤脇にある施設(操作室とでも呼べばよいのでしょうか)の2か所、計3度の神事が行われているそうです。

長柄ダムゆる抜き

ゆる抜きは、そのダムやため池の下流域に本格的な田植えシーズンが訪れたことを知らせる行事でもあります。

慢性的な水不足に悩まされてきたこの讃岐の地では、「水があること」が当たり前ではありませんでした。このゆる抜きには、「今年も水が届き、田植えが出来る」ことへの感謝と、そこに携わる人々の健康・安全や、豊作への祈りが込められているのでしょう。

機械や管理システムが整備された現代においても、そうした水を大切に思う地域の人々の心は、このような儀礼を通じて、脈々と受け継がれているんですね。

 

全然「ゆる」くない、毎秒2tの水の勢い

それにしても、近くで見ると凄まじい水の量です。

職員さんに聞くと、長柄ダムのゆる抜きの放水量は、毎秒2t。ゲートは2つあいているので、ゲート毎に毎秒1tずつ、放流されているそうです。

ちなみに、ゆる抜きで有名な豊稔池の水量は毎秒4tだそうで、単純に長柄ダムの2倍。もう数字が大きすぎて、逆に実感が持てません。

これだけの水が流れ出てても、下流域にはほとんど影響がないのですから、改めて自然のスケールには驚かされます。

通常の放水の様子

ちなみに、こちらも職員さん情報で、この長柄ダムには何もしなくても、およそ0.5t/秒の水が流れ込んでいるそうです。だから、通常時から約0.3t/秒の水を放流しているそうです。

実は全国で2番目に古い、長柄ダムの歴史

長柄ダム嵩上げ工事の様子

長柄ダムの周辺では今、道路の付け替え工事が進んでいます。

昨今激しさを増す自然災害に対応するため、既存のダムを15m以上嵩上げするという、全国的にも珍しい工事計画が進んでいるのです。

この長柄ダムの工事が着手されたのは、1935(昭和10)年。青森県の沖浦ダム(1945年竣工)に次いで、日本国内で2番目に施工が開始された極めて歴史の古いダムなのです。(竣工を迎えたのは、戦中・戦後の混乱期を経たは1953(昭和28)年)。

嵩上げ工事後の新・長柄ダムでは、その構造上、ゆる抜きを行う必要がなくなるそうで、そうなると、この地で、このダムでゆる抜きが見られるのは、来年が最後になるのではないか、とのことでした。 

 

この長柄の「当たり前」の歴史が消える前に

長柄ダムゆる抜き

ここでのゆる抜きが、どれほど長く続いてきたのか、現時点では分からないのですが、竣工から毎年続いてきたのだとすれば、それはとても大きな積み重ねです。

竣工からずっと続いてきた年中行事が、あと一度で幕を閉じるかもしれない。

ゆる抜き前の神事についても、コロナ禍以降、その出席者がぐっと減って来ているのだとか。神事があって、地元の人が集まり、そして水が流れる、というこれまで当たり前に繰り返されてきた歴史は今、存続の岐路に立たされています。

来年のゆる抜きが本当に最後になるかどうかは、まだ分かりません。当然ながら、この行事に、このダムに足を運ぶ人が増えれば、自然と、この歴史も、記憶も、受け継がれていく可能性が高くなります。

 

長柄ダムゆる抜き

どうか、一つの歴史が消える前に足を運んでください——

 

毎年、6月15日前後に行われる長柄ダムのゆる抜き。

綾川町に住んでいる人達にも、なかなか知られていない行事です。

  

 

長柄ダム概要

  • 所在地:香川県綾歌郡綾川町東分
  • 河川名:二級河川・綾川水系綾川(本流)
  • ダムの型式:重力式コンクリートダム
  • ゲート(放流設備):テンターゲート(ラジアルゲート) × 2門
  • 竣工年(完成):1953年(昭和28年完成 / 昭和27年度事業完了)
  • 諸元:堤高 30m
       堤頂長 124.0m
       総貯水容量:421万m³(4,210,000m³)
       有効貯水容量:411万m³